海外の電子契約サービス裁判例

海外の電子契約サービス裁判例

日本では、電子契約の形式的証拠力が裁判で争われた判例は今のところありません。しかしながら、海外では日本より早くに電子契約サービスが普及したこともあり、本人が否認したことにより裁判が行われたケースも登場しており、契約に対する本人の意思が認められず、契約が成立しなかった判決例も出ています。今後、国内でも電子契約の真正性について裁判で争われることも考えられる時代が来ることが想定されます。利用する電子契約サービスを選択する時の参考になればと考えて、実際の裁判の判例を纏めてみました。

1.オランダの事例
ー個人取締役を保証人とするビジネスローンの電子契約ー

ケース/ロール番号:8077607 CV EXPL19-4084
判決日:2020年10月7日

2018年10月11日、"スウィッシュファンド"はウェブサイトで[原告の会社]への融資契約を申請し、"スウィッシュファンド"と[原告の会社]との間の融資契約および"スウィッシュファンド"と[原告の会社]の役員であった[原告]との保証人契約を2018年10月18日にデジタル署名で締結したと主張しています。融資契約書の[原告]のデジタル署名と保証人契約の[原告]のデジタル署名には、[原告]のイニシャルと姓が含まれています。

オランダ民法第3条第15a項において、eIDAS規則の第3条12項に規定されている適格電子署名(Qualified electronic signature)は、契約締結時に使用される手書き署名と同じ法的効力を有します。また第11項に規定する高度な電子署名(Advanced electronic signature)は、当該電子署名が使用される目的を考慮し、かつ、当該事案の他のすべての状況を考慮して、適切な電子署名方法が使用されている場合には、当該電子署名が手書き署名と同様の法的効力を有するとされています。

第3条:15a 電子署名
の法的効力 - 1. 電子署名は、電子データが使用された目的および状況の他のすべての状況を考慮して、その認証に使用される方法が十分に信頼できる場合、手書き署名と同じ法的効果を有する。
- 2. 第1項で意味する方法は、電子署名が以下の要件を満たしている場合、十分に信頼できると推定される:
a.署名者に固有の方法でリンクされている。
b. 署名者を特定することを可能にすること。
c. それは、署名者が彼の排他的な支配下に置くことができる資源によってもたらされます。
d. それは、それが関連する電子ファイルにリンクされ、データの各変更を後で追跡することができます。
E. 以下「オランダ電気通信法」の適合条件が続く。
(a〜dはeIDAS第3条26項(第3条11項のAdvanced電子署名の条件)と同じ内容)参考(オランダ民法第3条第15a項)

この事案で被告は、使用された電子署名がオランダ民法第3条15a項に準拠していると主張しましたが、使用したクラウド署名プログラムがeIDAS規則の第3条に示される適格な手段と判断できる条件を満たしていないとされました。実際に使用したクラウド署名プログラムでは、契約書を申請者のメールアドレスに送信し、契約書の文書を開いて内容を確認し、申請者から提出された電話番号にSMSで送信された確認コードを入力した上で、署名の入力、画像の入力、画像の挿入などの幾つかの手段の中から一つを選択して署名処理を完了させると、クラウド署名事業者によるデジタル署名が実際に契約書に付され、文書の変更が出来なくなります。
元々、このようなデジタル署名は適格(Qualified)電子署名とは見なされません。また、地方裁判所はSMSを使用した方式が使用された署名は、eIDAS規則第3条11項に定める高度(Advanced)電子署名と見なされないと裁定し、これはeIDAS規則第3条10項に定める、通常の電子署名であると判断しました。これにより、地方裁判所は、この保証人契約で使用された通常の電子署名は十分に信頼できるとは考えられず、手書き署名と同じ法的効果を持つとは出来ないと判断しました。

これにより、被告の主張の基礎となる保証人契約が、オランダ民法第7条859項第1項に定める保証人契約であるととみなされる場合、その合意には保証人が署名した文書によってのみ証明することができるとされています。今回の契約には、そのような文書は存在せず、電子署名も十分な信頼性を証明できず、この保証人契約が成立しないとの判断になりました。

第7条:859条 証拠の手段として認められるのは書面のみである。
- 1.保証人契約は、保証人自身が署名した書面によってのみ証明することが出来る。
- 2.保証人が主たる債務者の債務の全部または一部を履行したことが確認されたときは、保証契約は、あらゆる証拠手段によって証明することができる。
- 3.第1項及び第2項の規定は、第7条:857(保証人の定義項)に定義される者を保証人として、保証人契約締結することの証明にも適用する。参考(オランダ民法第7条859項)

2.カリフォルニアの事例
ーソーラーシステムの資金調達と設置工事の電子契約ー

判決日:2019年11月19日
ケース番号:No.D075519

内容:リノベートアメリカInc.(以下、リノベート)と原告ローザ・ファビアン(以下、ファビアン)の自宅の太陽光エネルギーシステムの資金調達とその設置に関するクラウド電子契約システムによる電子契約において、契約者が署名したことを立証できなかったという事例。

ソーラーシステムの設置業者リノベートは、クラウド型電子契約システムによる電子署名によって、ファビアンが、2017年2月28日にソーラーシステムの設置資金を調達するために契約を締結したと主張したが、ファビアンは、契約書に物理的にも電子的にも署名しておらず、原告の電子署名と称されるものは、本人の同意、承認、知識なしに契約書に「置かれた」ものであると主張した事件で、リノベートが十分な証拠を提示できなかったことから、原告の主張が認められ当該契約は締結されていないと判断されたものです。

リノベートアメリカInc.はファビアンの電子イニシャルと署名を「法的拘束力」があると主張していました。その根拠として、過去のクレジットカードの負債の清算を安くできるサービスに関する判例を示して、その中で、今回使用されたクラウド型電子契約システムを提供する会社が、米国電子署名法(ESIGN)、15U.S.C. §7001et seq.に準拠して文書に電子署名するために利用された会社で、その有効性が認められていると説明しています。ESIGNの下では、ESIGNに準拠した電子記録および署名は法的拘束力があります。このクラウド型電子契約システムでは、会社がシステムから電子署名のために顧客にドキュメントを送信できます。顧客は、署名者が実行するようにマークされた領域を含むドキュメントをレビュー用に開きます。署名者は署名を作成し、すべてのフォームフィールドに入力し、必要なすべての場所で署名したら、署名を確認するボタンをクリックする必要があり、電子署名が作成されるまでのプロセスが説明されています。この過去の事案では、署名を検証するために使用されたプロセスを正確に説明することによって、「文書署名された」電子署名が原告のものであることを証明したものでしたが、ファビアンの事案とは異なると判断されています。

リノベートは、裁判の手続きにおいて、クラウド型電子契約システムに関するいかなる証拠も提供しませんでした。実際、このシステムの名称は、リノベートの証拠書類には登場しません。リノベートは、このクラウド型電子契約システムを介してファビアンの電子署名を検証するために使用されたプロセスについて、誰がファビアンに契約を送ったか、契約がどのように彼女に送信されたか、ファビアンの電子署名が契約にどのように配置されたか、署名された契約を受け取った人、署名された契約がリノベートにどのように返却されたか、およびファビアンの身元が実際に契約に署名した人物としてどのように確認されたかなど、何の証拠も提示しませんでした。

ファビアンが契約書への署名に異議を唱えた後でも、リノベートは、電子署名がファビアンによってのみ契約書に載せられた可能性を示唆しなかった。ファビアンの電子イニシャルと署名の上に現れるクラウド型電子契約システムの名称を表す文字列の重要性を明確にしていません。最も重要なのは、クラウド型電子契約システムがファビアンに契約の初期と署名時に固有の「身元確認コード」を割り当てたという証拠を提供することによって、ファビアンの電子イニシャルと署名が「ファビアン行為」であったことを説明しなかった。ファビアンの電子署名の下に表示される15桁の英数字や「身元確認コード:ID検証完了」という言葉の重要性を説明しませんでした。リノベートは、契約の履行のプロセスにおける具体的な詳細を提供しないことで、リノベートの請願を支持する証拠に重大な問題点を残しました。

ファビアンが契約書に電子的に署名したことを証拠の優勢によって証明しなかったリノベートの怠慢に基づいて、申立てを否定することに裁判所に誤りはなかったと結論づけられています。

3.判例についての補足

オランダの判例は、オランダ民法がeIDAS規則の第3条第12項に規定されている適格電子署名(Qualified electronic signature)や同じくeIDAS規則の第3条第11項に規定する高度な電子署名(Advanced electronic signature)であれば、本来、契約締結時に使用される手書き署名と同じ法的効力を有すると規定されています。実際に使用されたデジタル署名は、あるサービス事業者のクラウド型電子契約システムで使われる申請者から提供された電話番号によるSMSが受信した確認コードは、署名者が「高いレベルの信頼を得て、彼の排他的管理下で」使用できるものではないと判断したものです。

一方、カリフォルニアの判例は、過去の裁判において、別のサービス事業者のクラウド型電子契約システムによる電子契約を認めた判例を引用していましたが、同じクラウド型電子契約システムを使用する今回の工事業者が契約者に対する資金調達契約やソーラーパネル設置の工事契約に関する説明の仕方、クラウド電子契約システムの動作、画面に表示される内容の意味を正しく説明すること、或いは契約に至るプロセスの説明に問題があり、契約の為の重要な手続きであるという認識をさせないまま、契約締結を実施したことから、工事業者の主張が退けられて、当該契約は締結されていないと判断されたものです。

いずれの事例も、それぞれの国の民法等の違いこそあれ、日本国内の電子署名法に照らし合わせた場合、契約締結を認めるに十分な、第3条Q&Aで求められているような『十分な水準の固有性』が認められなかったということと考えられます。

事業者署名型電子契約サービスと当事者型電子署名
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