各国の電子署名制度
印影や手書き署名が付された紙の文書とは異なり、電子文書は容易に複製できてオリジナルとの区別もつきません。しかし、オリジナルの電子文書が不正に改ざん、改変されていないことを保証する電子署名技術は、電子の世界において印影や署名の役割を果たしていると言えます。従来の紙文書とは性質の異なる電子文書が、法律上どのように扱われるのかについては、重要な契約や取引を電子上で行う場合には特に注意すべき事項となります。電子契約、電子署名に関する国際的な定義・ルールなどは未だ確立されておりませんが、法整備は各国で進んでおります。主要な国々の法整備の状況についてご紹介します。
国・共同体 | 日本 | EU | 米国 | 中国 |
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電子署名に係る法制度 | 電子署名法 | eIDAS規則 | ESIGN法(連邦法)およびUETA法など | 中華人民共和国電子署名法 |
適用年 | 2001年 | 2016年 | 2000年 | 2005年 |
法制度に基づく電子署名の法的効力 | 押印・手書きの署名と同等の効力を有する | 手書きの署名と同等の効力を有する | 手書きの署名と同等の効力を有する | 押印・手書きの署名と同等の効力を有する |
電子署名に係る認定制度 | 認定認証業務 | 適格トラストサービスプロバイダー | - | 国務院情報産業主管部門(工業信息化部)の認可 |
EUの電子署名制度
EUでは電子署名やタイムスタンプといった各種トラストサービスを規定するeIDAS規則が2016年7月に適用されています。この規則では電子署名等の法的効力や有効性を定めており、EU各国の企業間で電子的なやりとりを安全に効率良く行うことができる枠組みが整備されました。eIDAS規則において電子署名はいくつかのレベル分けがなされており、最も厳格なレベルの適格電子署名(QES:qualified electronic signature)は手書き署名と同等の法的効力を有しています。
適格電子署名はeIDAS規則の要件をクリアして、監督機関から許可された事業者である適格トラストサービスプロバイダーのみが、そのサービスを行えます。適格トラストサービスプロバイダーは国ごとにリストとして管理されており、さらに各国のリストをまとめたリスト(List of Trusted Lists)が欧州委員会にて管理されています。利用者はこのリストを使って電子署名等のサービスを検証でき、サービス間の信頼性を確保できます。
米国の電子署名制度
米国では電子署名に関する法律として連邦法のESIGN法(Electronic Signatures in Global and National Commerce Act)や各州が採択するUETA法(Uniform Electronic Transactions Act)があります。これらの法律では要件を満たせば電子署名が手書き署名と同等の法的効力を持つことを認めています。また電子署名の定義は広範で、双方が合意していれば手書きされた署名をスキャンしたPDFも電子署名として認められています。
なおEUとは異なり、電子署名以外のトラストサービスについて包括的な法整備はなされておりません。このような状況の中、事業者からは様々な電子署名サービスが登場し、広く利用されています。ただし、ESIGN法上は一部の書類については電子署名が認められていないことや、利用するサービスによっては事後否認等訴訟トラブルにつながる可能性もあるなど、電子署名サービスの利用前に確認・留意して手続きを進める必要があります。
中国の電子署名制度
中国では「中華人民共和国電子署名法」が2000年代に施行されています。本法律にて、電子署名が署名者本人によってのみ管理され生成されているなどいくつかの要件を満たせば、信頼性のある電子署名と見なされ、手書きや押印と法的に同等であると規定されています。
近年は電子署名の利用範囲を拡大する改正がなされ、関連当局からも電子契約、電子署名等を促進する動きがみられます。
現在、中国ではいくつかの大手テクノロジー企業が電子契約サービスのプラットフォームを構築しています。中にはブロックチェーン技術を用いて契約書等の改ざんを防止しているシステムもあります。近年では爆発的に電子契約サービスの利用が拡がっており、年間の電子契約の締結回数は数百億回を超えるとの調査結果もあります。